花火野郎の観覧日記2015
観覧日記その2 3/7
越後妻有 雪花火 / 2015 石打丸山SNOWカーニバル
新潟県・十日町市/南魚沼市
関越トンネルを車で通るのは7年ぶりだ。マイカーが無かった間はレンタカーですら通ることはなく、上越方面への車での花火観覧はほとんどご無沙汰になっていた。山斜面の雪肌はところどころ亀裂が入り、だいぶ積雪も緩んで雪国の春も近いようだ。道路脇の電光表示板では7℃の外気温。ずいぶん暖かいなと感じた。なにしろ今日は国境のトンネルを抜けた新潟の方が天気がいい。関東地方は小雨混じりのどんよりとした天気で、これで出かけて大丈夫かと思ったが予報を信じて出発して良かった。関越トンネルに入るまでは赤城高原くらいまで渋滞があり、久しぶりにスキー渋滞かと思ったけれどそれは新潟までは続いてなかった。
そもこのイベントはネットで冬場の花火情報を探していた頃に知った。花火の手前の雪面に散りばめられた色とりどりの灯りが印象的で、花火もさることながらこの綺麗な雪面のイルミネーションを見てみたいと思ったのだ。その後東京都内や近郊のJR駅構内にも同じ写真を使ったポスターが貼られたので関東圏でも見かけた人も多かったのではないだろうか。
越後妻有は大地の芸術祭の里としてアピールしている。さまざまな芸術家が、この地で各種のパフォーマンスを見せるというもの。この雪花火でも花火以外で4人のアーチストが雪原を舞台に作品を展開する。その中のひとつが高橋匡太氏による、雪アートプロジェクト「光の花畑=Gift for Frozen Village 2015」だ。これが公式や宣伝ポスターなどで花火の前景の雪面を彩った色とりどりの光の芸術だ。里山の暗闇と雪原を光によって変幻自在にイメージを一新してきた高橋匡太氏は来場者と共に植える2万個以上の光の種(LEDライト)による“光の花畑”を展開する。昨年も好評だったが新しい演出を加えた光のアートを今年も披露するのだという。
今年でまだ2回目というイベントだが、目玉はなんと言っても冬の三尺玉打ち上げ。昨年には無かったこれが盛り込まれたのは今2015年が新生十日町市が誕生して10年目の節目に当たるその記念らしい。冬の三尺玉といえば、かつてこの場所からそう遠くない塩沢石打ICの近く、舞子スノーリゾート(旧舞子高原後楽園スキー場)の雪上花火で、長岡まつりと同じ嘉瀬煙火工業により打ち上げられていたものが有名だった。私は毎年ではないが過去に4回見ている(観覧記は こちら )。舞子の三尺玉は2007年が最後だったと思う。翌年からなんらかの事情で取りやめになり、以降冬の三尺玉は途絶えた。今年もこの妻有イベントの一週間後に舞子雪上花火が開催されるが番付の最後を飾っていた三尺玉の記載は今は無い(最大10号)。だから冬季に三尺玉打ち上げがあるとなればそれだけで花火ファンは足を運ぶに違いない。公式の記載では三尺以外の花火は数分間、とあるので三尺が無かったら一考せざるを得ないところだった。それに広報に使われていたワイドスターマインの写真はそれほどサイズの大きい玉ではなかったし。だから私も「でも三尺が」ということと花畑のイルミネーションだけで来たようなものだ。
公式ホームページの案内を参考に現地に向かう。関越自動車道の六日町ICから下道の一路。雪花火のイベント会場・ナカゴグリーンパークにはマイカーはもちろん徒歩での入場も不可と明記されている。マイカーで行っても指定駐車場から必ず無料のシャトルバスを利用しなければならない。その発着場所や臨時駐車場、シャトルの時刻などはあらかじめ確認済み。また有料イベントなので入場券を事前に買っておいた方が入場はスムースということで、駐車場であり発着場であり、かつ入場券を販売するという地点を選んで車を入れる。たまたまそこが駐車台数が多かった、ということもある。
指定駐車場が13時から入庫可能なので到着もそんなもの。早めに着き過ぎたかと思ったが、入場券を買うつもり(実際の販売は最初のシャトルバスが出る直前の16時からだった)の地元の写真愛好家が何人か集まっていたのでしばらく歓談して情報交換。昨年の第一回目を見ている方も居たのでこの交流があとあと役に立った。それにしても陽射しのある日中は暖かく、車で昼寝していると汗をかくくらいだった。
夕刻になって入場券を買いに臨時販売テントに行くと、地元の知り合いの花火愛好家たちが来ておりしばらく歓談。うちひとりがこの時点では手に入らない会場見取り図を持っていたので見せてもらう(行ってみると現地入り口で配布していた)。それで早くも居合わせた全員で思い悩むことに。この日の一番の目玉はもちろん三尺玉。もともとそれがどこから打ち上がるか?が話題だったのだけれど、見取り図には「光の花畑」と呼ばれる雪面のアートイルミネーション、三脚建立可能エリア、ミュージックワイド花火の打ち上げ位置、三尺玉の打ち上げ方向が記されていた。悩んだのは、図のようにワイドと三尺玉の方向が90度以上離れた別方向なこと。しかも前景の光の花畑を挟むと、一カ所でどちらもは対応できない事がわかった。そもそもどこでも自由に撮れるわけではなく、三脚が建てられる場所が2箇所のエリアに決まっていたのだった。途中で双方を移動できればいいのだけれど、混雑具合もわからないし、雪上の移動も素早くは無理だろう。二カ所に分かれた撮影エリアは、それぞれ三尺方向専用、ワイド方向専用と言っても良く「どっちをメインに狙うか?」で皆で頭を抱えててしまったわけだ。その後定刻通りにやって来た16時30分の1番バスで会場へ。車で乗り入れられないので防寒装備に三脚、カメラザックと装備は全て持って背負える範囲になる。この日は背の高い三脚1本と踏み台、カメラは1台のみで望んだ。
バスはスムースにイベント会場に向かうが、その場所は少し山間に登って行ったところ。町中より積雪が多く、道路脇の雪の壁も遙かに高い。実はこのシャトルバスというシステムが面倒で行くのを止めようかと考えたくらい。土浦以外でシャトルが快適だった試しが無いからだ。しかし徒歩入場禁止とはいえ、徒歩で上がる気にもならない距離と勾配だった。嘗めてました。スミマセン。
バスを降りると入場券の有る無しで列が分けられ、持っていないとすぐに撮影場所に向かえないので買っておいて良かった。スタッフの誘導でLEDを設置した「光の花畑」エリアを通って三脚設置可能な観覧場所に向かう。この花畑は緩斜面に設置されているので緩やかとはいえ登り勾配。馴れない雪斜面を全機材を担いで登るのはなかなかに息が切れた。防寒用の長靴がずるずる滑り、力が逃げて足腰に負担が……。もがきながらようやく登り詰めて花畑を見下ろすエリアに到着順に三脚を建てていく。各方面からのシャトルバスが到着するたびに三脚が増え、たちまち壁になった。
結局私は初めての場所では正攻法、ということでワイドが正面に見える方の三脚エリアを目指したわけだ。三脚を建ててみると三尺方向と思しき向かって左手にカメラを振ってもかろうじて手前に光の花畑の一角が入りそうだった。三尺は山というか森の向こうらしく当然筒の場所もわからない。会場到着がもう17時になろうかという頃で打ち上げまで2時間程度。状況把握と情報収集、撮りの段取りで、初めての場所とあって精一杯。のんびり打ち上げ場所の確認もできない。ワイド打ちのみ双眼鏡で筒の位置を確認する。その後愛好家仲間からの情報で、三尺のみならず二尺まで3発入るという。それ以外は最大10号。……なんだか凄いことになってきたぞ、と期待に胸が躍る。二尺は正面のワイド方向というのだが、どうやら一段低い山斜面方向らしく筒までは見えなかった。肝心の三尺玉はどこ製なのか?だが地元の写真愛好家達は午頃すでに小千谷煙火だろうと話していた。その後、仲間内情報などからその通りであることがわかった。
花火は19時からだが18時あたりを中心にけっこう雨に降られて傘が手放せなかった。曇り予報だったが実はシャトル発着所でバス待ちをしている時にも雨になったので万一にと大きめの傘を用意してきて良かった。日中は暖かかったので下半身は軽めのウェアにした。足回りはSORELほどじゃないけど防寒ブーツだから冷えないものの、さすがに四方を雪に囲まれ、雪の上に立ち尽くしていると全身に思い切り冷えを感じた。幸いに打ち上げ時は雨は上がってまずまずの好条件。
到着時に既に点灯していたらしいが明るくてわからなかった「光の花畑」も、辺りが暗くなるにつれ本来の姿が浮かび上がってきた。これは雪斜面に数メートルほどの直径の円をそれぞれが接するように無数に描き、その中に色とりどりの小さなLEDライトを撒き散らして置いたものだ。LEDライトはボタン電池使用で個別に点灯している。最初に写真を見たときは、町中のイルミネーションのように電気配線されているのかと思ったが、もっと単純で効果的な仕掛けだった。巧いことを考えたなぁ。単純ではあるが、宵が訪れると共にその光は輝きを増し、雪面に少し埋没したLEDはそれぞれがぼうっと優しい光の輪を放つ。白、赤、オレンジ、青、緑と五色の灯りが無数にランダムに散りばめられて、実際に目の当たりにすると実に美しい。LEDが置かれた輪の中に入らなければそれぞれの円周上は自由に散策できるので、光の花畑の中も多くの観客で賑わった。雨模様にもかかわらず周りではこの光のアートをとらえるべく盛んにシャッターの音が絶えない。私はもう完全に花火仕様の設定なので、花畑はコンデジまかせ。
しかし現地でお会いする花火愛好家、写真愛好家の面々は、ほとんど勢揃いじゃないか、というほどの面々。三脚可能エリアに三脚の壁が二重三重にも形成され、その関心の高さというか、集まり具合にも驚いた。
開始前のアナウンスで「光の花畑の山側の一角は花火の保安距離なので立ち入り禁止」と繰り返し告げていた。光の花畑の中の通路は自由に散策できるが、確かに三尺方向といわれた一角は誰も立ち入って無かった。私はこのアナウンスで三尺玉の保安距離円が会場内にくいこんでいることから、筒まで6〜700メートルくらいか「これは結構近いのかも」と察した。三尺クラスを1000メートル足らずの保安で見ると凄い迫力だ。鴻巣で700メートルの間合いで見たときは恐怖すら感じたが、久しぶりにそんな迫力なのだろうか。上がる方向はともかく高さはひょっとすると意外と行くのかも知れない、と感じた。花火開始のほんの10分前。なにか胸騒ぎというか、予感がしてそれまで装着していた24-120ミリズームからより広角の16-35ミリズームに付け替えた。結果としてこの直前の判断が奏功した。
雪花火の進行について開始前にアナウンスがあった。そして開幕いきなりで三尺玉。他の花火も打たれていない、視界良好の絶好の条件の中でそれは放たれた。三尺の出る方向は予想より左方向で、すぐに向け直した。三尺玉は想像以上の高さと拡がりで展開し、だいたい20ミリちょいにしておいた画角も縦位置ではさすがに左右は入りきらずに見切れた。いやーレンズ変えてなかったらヤバかった。目映いほどの金色の光が空一面に拡がり、辺りの雪面も砂金を散らしたような鈍いゴールドに照らされる。錦の星が消えるまでのほんの数秒間だけ富裕層になった気分。
その後は15分ほどダンスパフォーマンスが入り、後半のミュージックスターマインと称したワイド打ちはその後に続いた。ワイドだから横位置、と単純にそう対応したのだが、斜め打ちを含む打ち上げがスタートするやいなや、正面から二尺玉が放たれた。これは事前にはわかっていたことだが、その筒までの距離やらは不明。さすがにかなり広角とはいえ横位置では二尺の天地はきつく上が見切れた。それでこの直後から縦位置に仕切り直して撮り続けた。
ラストは豪華に二尺と三尺の対打ちで、これは左方三尺が最初と同じ位置、右方二尺が正面、とけっこう離れていたのでどっちを撮るかなんてやっているうちに撮りも中途半端になってしまった。やれやれ。
それにしても、当初考えていたのとはまったく良い方に違って、三尺は特別としてもその他が10号、20号までの大玉が入る大規模な打ち上げだったのには驚き、感動し大満足だった。有料イベントだがシャトルバス代が込みと考えてもこれだけの出し物が見られれば破格の入場料ではないか。光の花畑を見るだけでも価値があると思う。会場各所に居るスタッフの応対や誘導なども親切で実に心地よいイベントだった。冬にこれだけの心温まる花火とイルミネーションアート、それに暖かい食べ物を楽しませて頂き、主催者様に心より感謝申し上げたい。
終了後は三々五々集まった観客が一斉にひとところのシャトルバス乗り場に向かうので長蛇の列になる。しかし昨年、同様の状況になって混乱したのを改善したらしくそもそもシャトルバスは昨年比3倍の台数に増やしたという事もあり回転は速いようだ。そしてバス乗り場でのスタッフの誘導も極めてスムースで、30分ほど並んだが無事にバスに乗車できた。
会場を下り、通りに出て最初の交差点に差し掛かるまで、道路両脇の雪の壁に設えられた光の回廊が延々と続く。道路脇に除雪された雪の高い壁の中程を、等間隔に立方体にくりぬいてその中にろうそくやLEDライトを設置したものだ。この美しく暖かい灯りに見送られて、このイベントの余韻は最高のものになった。この設置にどれほど数のスタッフの労力がかけられたことだろう。その一人一人そして、会場の外でシャトルを誘導する警備方の一人一人に感謝したい気持ちだった。
後日の主催者の発表によると、この雪花火で昨年の倍近い約4,000名の来場者があったということだ。
さて帰り道すがら、というか、寄り道して21時15分からの石打丸山のスキーフェスタの花火を見ることにした。間に合うのか微妙だった。六日町ICからひと区間高速を使えば楽勝だけどその250円ほどを惜しんで下道を行ったものだから開始まであと10分くらいのところで現着。着いたかどうかでゲレンデのナイター照明が消えてイベント開始体制。
観覧場所はあらかじめストリートビューで探してナビに打ち込んであったけれど、着いてみると車を駐めるはずの側道がどっかり雪の下。除雪対象外か……。仕方なく路駐しての撮影。内容は三尺の後だけに落差を感じざるを得ない。というより過去に観た時よりぜんぜん小規模になっていてびっくり。スキー場山斜面上部にまで達する大きな玉がひとつも無い。あれぇこんなだったけか……。最大3号かな。打ち上げ場所も以前より低い位置だった。せめて5号くらいと願ったけれど結局一度も上がらずに10分ほどでミニマムに終了。まぁ、スキー場それぞれの懐事情もあるだろうし、花火を伴うイベントをやってくれるだけありがたい。直ぐ近くの塩沢石打ICからインして帰路に付く。
今回の処理のポイントは、担当の花火屋(小千谷煙火)さんらしい色と輝きに仕上げること、それと5色のLEDライトの光がきちんと見たままの色に再現するということだ。それぞれの花火作家、煙火業者らしい、色や形という個性がそれと判るように撮れていなければ、写真として仕上がっていなければ、それは私にとっては花火写真と言えないのだ。それと撮影時、現像時に手間のかかることをしているけれど、結果は眼で見たときのような自然な仕上がりを目指した。
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